梅の里便り第33号 2011.7.29

早いもので、お野菜セットのお届けも今年で5年目を迎えました。

年毎に多くの皆様からご注文を頂き、とても嬉しく思っています。

リピートいただいているお客様のおかげで、『うちのお野菜が喜んでいただけている』と大きなやりがいを感じます。そんなお客様からうちのことを聞かれてご注文いただいた方には、ご紹介いただいた方共々、感謝の念で一杯です。 皆様本当にありがとうございます。

 

そして、今までにもまして「今年もお野菜をお届けできること」を嬉しく思っています。

梅の里便り第24号に書いたように、今直接ご縁をいただいている方だけに限らず、たくさんの人たちのおかげでお届けできているということは折に触れて感じていることなのですが、今年は特別その思いが強く感じられるように思います。

そう感じる理由はたくさんあるのですが、ここでは3つの理由を書いてみたいと思います。

 

一つ目は、皆様も既にご承知のとおり、自らの体、健康についてのことです。

昨年度は、夏秋と二度にわたり入院してしまったため、まともにお野菜のお届けができませんでした。本当に申し訳なかったと思っています。

今年1月半ばに、「慢性両側硬膜下血腫」完治の診断をいただくまでに、本当に多くの皆様のお世話になりました。その全ての方々の支えがあって今年もまたお届けができているのだと実感しています。

 

二つ目は、目には見えない大いなるものに対する感謝です。

夏野菜の作付けが順調に進み、梅の収穫を直前に控えた5月30日未明、台風が通過しました。幸いにも直撃は免れ、紀伊半島沖を通過する頃には温帯低気圧に変わり、ホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、30日朝東風よりも強い吹き返しの北風がわが町を吹き荒れました。新聞によると、この風によるみなべ町の梅の被害総額は県の調査では11億1724万円、傷も入れると収穫量の約2割に上るとのこと。

http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=211475

うちの梅畑も例外ではなく、収穫前の梅の実がたくさん落ち、実が鈴なりの枝が何本も折れました。植えつけたばかりの夏野菜もそれなりのダメージを受けました。

 

引き続いて、昨年よりも18日も早い入梅と梅雨明け、一転真夏の強い日差しが1週間あまり降り注いだと思えば、先日の台風6号に伴う大雨。今年の天候は例年にも増して不順続きです。台風の雨では、一昨年に冠水してしまった園地に併せて、こちらは大丈夫と思っていたもう一箇所の園地も完全に冠水してしまいました。(次ページの写真左)

 

いまや私たち日本人の多くが実感として感じていることと思いますが、時として自然は思いもよらない猛威をふるうことがあります。そんな時、百姓は、できる限りの対応はした上で、あとは壊滅的な被害を免れることを祈りつつ、自然が平素の穏やかな姿に戻ることを黙って待っていることしかできません。

自然の圧倒的な力の前では、人は謙虚になる以外に方法はないようにも思えます。

そして、ありがたいことに、いずれの時も天は全ての恵み(収穫)を奪い去っていくことはしませんでした。確かにこすれ傷等で少し見栄えがよくないお野菜が出来てしまったり、トマトのように、しばらくの間セットに入らないかもしれないお野菜もありますが・・・。

 そして、今日からみなさまへのお届けを始めることができました。(写真右)

        

そして、三つ目。

未だになんとも心苦しい想いを感じつつなのですが、3月11日に起こった東日本大震災とそれに伴う原発震災に対して感じたことです。

これらの問題は4ヶ月以上経過した現在も継続中のものであり、被災された皆様のご苦労やご不安を思うと、正直なところ未だにおかけする言葉も見当たらないのです。

 

僕の友人達の中には、直後に被災地に支援物資を届ける活動を始めた者、何度も現地に赴きボランティアに真剣に取り組んでいる者、被災された人々の心のケアをしようと活動を始めた者など、それぞれがその人なりに一生懸命に考え、自分にできることに取り組み始めた素晴らしい人たちが何人もいます。

でも僕はそういう友人達の話を聴きながら、うちの田畑をほっておくわけにもいかず、支援金を送ったり、離れていても出来る取り組みに参加したり、原発に関してのことを中心に、被災地の皆さんが自己防衛するのに役立つのではないかと感じた情報を発信するのみでした。

『ぼくにも何か他にできることがあるのではないか?』と考えたりもしました。

でも、結局のところ、僕の務めは、さらなる将来を見据えて、必要とされるときがきた時にちゃんとお届けしたり、伝えたりする力を発揮できるように、今は自らの「自然農」の力をつけていくことがより大切なのではないかという答え以外は出てきませんでした。

そして、僕は、南高梅の収穫もはさんで、いつもと変わらず田畑で汗を流し続けています。

 

ちなみに、僕が昨年から毎週楽しみにしているメルマガ『順空和尚の一分で読めて一生忘れない悟りのお話No.321』によると、〈務〉とは「なすべき仕事・役目」のこと。

その回のメルマガを一部引用させてもらうと

『義務、職務、責務、公務、国務
「なすべき仕事・役目」を意味する〈務〉という事柄を抜きにして、人生も国家も語ることはできません。お百姓さんは農務、病院では医務、学校での教務に、会社の業務、そして坊さんは仏法を伝える法務。
親には親の務めがあり、子どもには子どもの務めがある。
もちろん、公務員にも、知事にも、議員にも
自らの任務に目覚め、それを全うしようと努力する時、その人の存在は輝き、周囲を幸福へと導く。
それぞれが課せられた責務を自覚し、それに忠実であろうとする時、社会は安定し発展へと向かう。』

とあります。http://bn.merumo.ne.jp/backno/listView.do?magId=00290663

 

僕は、『日々、自分の務めをしっかりと果たしているか?』 3月11日以降、折に触れてそのことを自らに問い続けてきました。

 

福島にも「自然農」の大先輩が何人かおられます。でも、震災以降直接連絡することができませんでした。(人づてにどうされているかは聞きましたが…。)何かできることはないか尋ねても詮無きことと思えたからです。僕も百姓ですから、福島や周辺の県の農家の皆さんの心痛は少しなりともわかるつもりです。『もし自分が現地で農業をしていたとしたら、どれだけいたたまれない気持ちがしているだろう。』 大地に根を張って、大地や田畑の命と共に生きている農家の皆さんがどれだけフィールドである田畑に想いを寄せているか。その気持ちを考えただけでもたまらない思いがしました。

そして農家の皆さんだけでなく、そこで生活している方々が自分の家族や子どもたちのことを思いやるお気持ちを考えると、直接的には殆ど力になれていない自分に対して、なんともいえない無力感に襲われることもありました。

 

でも最近、東日本のお客様や友人達から、『知り合いのお母さん方の中にも、安心して食べることのできるお野菜を探している人がいるので、紹介させてもらっても構いませんか?』というお問い合わせを立て続けにいただきました。

僕の方がとても勇気づけられたお申し出でした。

『うちのお野菜が少しでもお役に立てれるのであれば』

『直接ボランティアに出向くことだけでなく、僕にも僕の役割としてできることがある。』

心からそう思えたお申し出でした。

僕は今まで以上に真心を込めてお野菜をつくり、お届けしなければと思いました。

 

以上のような訳で、今年は昨年まで以上にうちのお野菜をお届けできることが嬉しいです。

基本的に耕さない大地で育った逞しいお野菜の、昔ながらの自然な味わいが、少しでもお客様方の心を癒し、心を込めて作られるお料理がお口を和ませることを願いつつ、お届けさせていただこうと思っています。

 

どうか、太陽の恵み、大地の力を一杯受けて、逞しく、自然に育ったお野菜たちの色と香り、そこに皆様のまごころが加わって生み出される、なんともいえない素朴でありながら深い味わいをお楽しみ下さい。そして、ぜひまた、お野菜や作られたお料理などのご感想をお聞かせいただけると嬉しいです。

                            「梅の里自然農園」    勇惣 浩生 拝









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